石の蔵ジャーナルishi-no-kura : Journal

Vol.9 : Feb. 2020マネージャー 早瀬貴志

意匠設計からの転身

私は栃木の出身で、大学進学で千葉へ行き、卒業後は千葉の設計事務所に勤めていました。20年ほど前に栃木に戻ってきまして、それから飲食の仕事に携わるようになり、2010年夏から石の蔵のマネージャーとして働き始めました。
面接のときに初めて石の蔵に来たのですけれど、ここは本当にレストランなのかと、美術館みたいだなと思いました。大谷石については旧帝国ホテルにフランク・ロイド・ライトが好んで使ったことなどは知っていましたが、こういう形で地元のレストランに活かされていることは新鮮な驚きでした。早いもので現場を任されて10年、サービススタッフと共に、日々お客様をお迎えしています。

ホールのスタッフは現在、総勢21名です。メンバーはベテランが多く、おそらく他店であればリーダー格というような人たちが集まっていて、日々の呼吸も合っているように思います。私はその日の予約状況などを見て、お客様の動向を頭の中に描いて想定したり、同時にスタッフの動きにも注意を払うようにしています。お陰様で忙しいランチタイムも、いまはスタッフの動きがよい状態になってきました。

私は基本的にスタッフを管理するというよりは、リーダー的な存在でありたいという思いがありますので、自分のことはとりまとめ役だと思っています。スタッフが楽しく生き生きとやりがいを感じる環境をつくったり、それぞれの個性を見て適しているところを掘り出しながらポジションを考えたり。何かお願いをしたときに、素直に協力し合える関係性を、どうやってつくっていくとよいかに重きを置いています。そうした一つ一つのことが、お店にいらっしゃったお客様への快適なサービスにつながるようにしていきたいです。

マネージャー 早瀬貴志
和食とワイン、念願のソムリエ資格

前職の飲食店はカジュアルなスタイルだったこともあり、石の蔵に来るまで私はワインに詳しくありませんでした。上野社長からソムリエの資格を取ってみてはという話もあり、以前ここで私のセカンドとして働いていた社員がワインに精通していたこともありまして…。刺激を受けながら数年かけてソムリエの資格を取得しました。ですから、勉強していく中で、ワインの魅力にのめり込んでいったという感じです。いまでは自分も好んでワインを飲んでいます。

ワインの勉強は、フランスから始めました。ワイン王国だけあり、地方によってワインの味の違いがはっきりしていて、多様性が素晴らしいんですね。よく言われることですが、基準をフランスで学んで、イタリアはじめ、他の国々のワインを学んでいくのが王道で、私もその通りに勉強しました。

石の蔵の主役は料理。熊谷料理長の作る料理に寄り添っていけるようなワインをラインナップしています。たとえば赤ワインは、有名なボルドーはタンニンが強いものもありますので、和食に合わせて、ボルドーの中でもタンニンのなめらかなものを選んだり。白ワインは、野菜料理なら青っぽいハーブのようなニュアンスのあるもの、ソーヴィニヨン・ブランなどを合わせたり。料理長の料理は繊細なので、やはり私も味わいや香りのやさしいワインを選んでいますね。

また、季節感も大事にしながら、暑い季節には溌剌とした白ワインや、赤ワインもライトな感じにとか、肌寒い季節には温かいお料理と相性のよいワインなどをご紹介。和の料理にちゃんと寄り添っていけるもの、料理あってのワインという選び方で、ご提案していきたいなと思っています。
 
ワインのアイテムも充実しまして、現在は赤と白で18アイテムずつ、スパークリングやシャンパーニュも合わせると42アイテムになります。アシスタントマネージャーの神永もソムリエの資格を持っていますので、私たちでワインを好まれるお客様にご対応しています。

お客様に寄り添った“接客ストーリー”を

レストランの席数は106あり、規模としては大きい方です。規模とサービスのバランスを考えながら、この店らしいスタイルをどのようにつくっていくか、そのことも私の日々の仕事です。
まずは、”お客様に関心をもつ”ということが、とても重要だとスタッフに伝えています。と言っても、大げさなことではありません。どのような主旨でのお食事なのか、お客様の欲していらっしゃるものをさりげなく推し量ることができれば、自ずと接客のスタイルも変わってきます。

会話を楽しまれたい方にはお料理の説明を長々せず、テーブルに入る回数も必要最低限にして、会話のお邪魔にならないようにします。お料理を楽しむことをメインにいらしたお客様には、必要な情報をしっかり添えてお出しします。

お客様のお皿を下げるタイミングも同様です。お客様はメインのお料理を召し上がっていて、奥に空いているお皿があるとします。空いているお皿を見かけたらすぐに下げるのではなく、お客様がいまどういう状況かということに意識を向けます。そうすればお食事や会話の邪魔にならないようなタイミングで下げられます。つまり、お客様のタイミングということです。

また、ご予約時にはおっしゃらなかったけれど、お連れの方のお誕生日ということもあります。事前にご予約いただければスペシャルデザートにバースデープレートをご用意できますが、そのようなご予約のなかった場合、スタッフが気付くことができれば、通常のデザートにバースデーカードを添えてお出しすることもあります。ちょっとしたサプライズですので、お客様のご様子を見て、こちらが出過ぎないように…。

究極的なサービスを目標に

自身サービスマンとしてまだまだ発展途上ですが、究極的なサービスとは、普段はあまり体験できないようなことを、こちらの空間と料理とお酒をサービスを介してお客様にご提供していくものと考えています。本質的な食べ物や飲み物についての体験や理解、いままで知らなかった食べ物や飲み物との出会いや知識など、それぞれのお客様の嗜好に合わせてご提供していくことを店の目標としています。

たとえば、お酒は栃木の地酒や焼酎をラインナップしていますので、それぞれのお酒の美味しさを知識と合わせてどれだけお客様にお伝えしていけるか。酒器やグラスの形によって、同じ日本酒でも味わいや香りはまったく違ってきますから、そうしたことを実際に体験していただくことができます。和食と日本酒はとてもよく合いますし、和食とワインというものの相性の良さももっと知っていただけたらなと考えています。

石の蔵の空間には、たくさんの方が関わってくださっています。設計の新藤力さん、照明の山下裕子さん、家具の富田文隆さん、和紙の堀木エリ子さん、華道の川上裕之さん…。皆様の傾けてくださった想いをつねに感じながら、お料理やスイーツ、飲み物を提供し、お客様にまた来てみたいなと思っていただけるようにしていくこと。現場を任されている自分の大きな仕事だと思っています。

和食をベースにした創作料理は、幅広い年齢の方にお楽しみいただけます。懐石料理のようにカチッとしたものではなく、もう少し親しみやすい料理に仕立てているのも石の蔵らしさです。料理が美味しいということでリピートしてくださる方も多く、ぜひそのお料理を、この特殊な空間でスタッフのサービスとともに楽しんでいただけたらと思います。


取材後記 
にぎわうランチタイムにうかがうと、きびきびと働く早瀬さんの姿…。落ち着いたディナータイムには、ソムリエとしての一面も。訪ねる度に感じるのは、その接客スタイルの”公平性“という快適さです。お料理や空間はもちろんのこと、それらを楽しむ時間を贅沢に感じられるのは、お客様一人一人に寄り添ったサービスの素晴らしさだと思います。石の蔵らしさを追求するサービスを知ると、さらに贅沢な心地になれるのではないでしょうか。